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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』68

last update Last Updated: 2025-01-23 16:53:03

目を覚ますと、赤坂さんの腕の中だった。

ガッチリと抱きしめられている。

早く抜けだそうと思うけれど、赤坂さんのことが好きすぎて離れる勇気が出ない。葛藤しながら抜けだそうとする。

「どこ行くんだ」

赤坂さんは目を覚ました。

「帰る」

抱きしめる力が強くなった。

「俺と付き合うって言わないと離さない」

「大丈夫。私も大人だから、こんなことがあっても仕方がないよ。気にしないから」

「本気なんだけど。遊びで久実を抱いたわけじゃない」

低く芯のある声で言われると、申し訳ない気持ちになってしまう。

「私は、赤坂さんとはお付き合いできないの。これからの人生、男性と付き合うこともないだろうから、芸能人に抱かれてみたかっただけだから!」

強い口調で言うと赤坂さんは手の力を緩めた。その隙に抜け出す。

散乱している下着と服を拾ってバスルームへと駆け込み、素早く身につけた。

広くて大理石で作られているお風呂にゆっくり入りたいと思ったけれど、一刻も早くでなければ。

着替えを済ませて出て行くと、赤坂さんはまだ裸のままベッドに横になっていた。

仰向けになっていて、手に頭を乗せていて、天井をぼーっと見つめている。

「いつまで、そこにいるんですか?」

「…………わかんない」

「早く着替えしないと、風邪引きますよ」

「……久実が俺の女になってくれないなら、このままここにいる。一生」

「子どもじゃないんですから。わがまま言わないでください」

「まあ、いいさ。また会える日を楽しみにしてるから」

ベッドから抜け出して近づいてきた赤坂さんは、私の目の前に立った。恥ずかしいから何か服を着てほしい。

「久実。愛してる」

切ない顔をしながら、そっと私の頬に触れてくる手はすごく冷たかった。

その手を払って赤坂さんを睨んだ。

「…………今までありがとうございました」

「なんで、別れの挨拶なわけ?」

顎を摘まれて、クイッと上を向かされる。

目が合うだけで、全身に火がついたように熱くなった。

チュッと唇を重ねられる。

赤坂さんの気持ちが唇から注ぎ込まれているようで、目眩がする。

これ以上一緒にいたら流されてしまいそう。力を振り絞って胸を押し返した。

「………なんで?」

「………」

「俺のこと好きだって顔してるのに。何が理由なんだよ」

「好きじゃない。帰る」

部屋から出て急いでエレベーターに向かった。

呼吸が乱れる。

泣き
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